Lesson4-2 嗅覚と脳

「甘い・酸っぱい・辛い・苦い・美味しい」などの味に対して、「コーヒーやお茶の香り、花の香り、体臭、生活臭」など香りの種類は数多く存在し、私たちはその中で暮らしています。

それでも、私たちは香りを嗅ぎ分けることができます。不思議な力を持つ嗅覚、さらにみていきましょう。

危険を判断するはたらき

そもそも、私たちには好きな香りと嫌いな香りがあります。たとえば、リンゴの香りはでどうでしょうか。甘酸っぱい、美味しそうな香りがすれば食欲をそそります。しかし、そのリンゴが腐って、嫌な臭いを漂わせていたらどうでしょうか?

誰もが不快な気分になります。つまり、私たちは香りの好き嫌いで、安全なものと危険なものを本能的に嗅ぎ分けているのです。このように、頭で考えるより先に危険を判断する嗅覚は、「原始的な感覚」ともいわれています。 

嗅覚と脳

嗅覚と脳には深いつながりがあります。まず、脳のしくみを簡単にみていきましょう。

脳は「大脳」「間脳」「中脳」「橋(きょう)」「延髄(えんずい)」「小脳」に分かれ、頭蓋骨の中にあります。「大脳」は左右の半球なり、橋の背方に「小脳」があります。さらに、「間脳」「中脳」「橋」「延髄」をまとめて「脳幹」といいます。重さは、約1300グラム、身体の中で最も重い臓器です。

「大脳」には、「新皮質」と「旧皮質」があります。「新皮質」は、思考や言語など人間らしい行動を生み出すところです。一方の「旧皮質」は、「大脳辺縁系」とも呼ばれる部分で、食欲や感情など本能的な行動を生み出すところです。

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タイムスリップする香りの力

「なぜかほっとする祖母の家の懐かしい香り」、「昔の恋人の香水」、「学生時代、通学路にあったキンモクセイの香り」など、香りから当時を思い出すことはありませんか?

香りを嗅ぐと、その刺激は脳の中にある「大脳辺縁系」に最初に伝わります。大脳辺縁系には、記憶を引き出す「海馬」、好き嫌いの感情を呼び起こす「扁桃体(へんとうたい)」などがある場所です。そのため、香りに反応して、過去の記憶がよみがえったり、感情を刺激したりと、私たちの心へ影響を与えるのです。

さらに、大脳辺縁系には「視床下部」という自律神経や内分泌系(ホルモン)を調整する場所があり、そこに香りの刺激が伝わると、気分が落ち着いたり、元気になったりと心理的効果を得られるのです。 

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五感の中でも特殊な嗅覚

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の5つを五感といいます。そのうち、視覚、聴覚、味覚、触覚は、刺激を受け取ると脳の中にある「大脳新皮質」に最初に伝わり、そこで分析され認識した後、「大脳辺縁系」へ伝わり感情を動かします。

一方、嗅覚では、刺激を受け取ると最初に「大脳辺縁系」に伝わり感情を動かし、その後「大脳新皮質」へ伝わり、その香りが何なのかを意識することになるのです。

視覚 → レモンを見る
大脳新皮質 これはレモンである
黄色い、ビタミンなど(認識&分析)
大脳辺縁系 好き
嗅覚 → レモンを嗅ぐ
大脳辺縁系 好き
気持ちが良い、爽やかなど(感情が動く)
大脳新皮質 これはレモンである

Lesson4-2 まとめ

・私たちは香りの好き嫌いによって、安全なものと危険なものを本能的に嗅ぎ分けている

・嗅覚は「原始的な感覚」といわれている

・「間脳」「中脳」「橋」「延髄」をまとめて「脳幹」という

・「新皮質」は、思考や言語など高度な知能活動を行なう脳である

・旧皮質は、「大脳辺縁系」とも呼ばれる

・香りを嗅ぐと、その刺激は脳の中にある「大脳辺縁系」に伝わる

・大脳辺縁系には、記憶を引き出す「海馬」、好き嫌いの感情を呼び起こす「扁桃体」がある

・視覚、聴覚、味覚、触覚で得た情報を「大脳新皮質」から「大脳辺縁系」へ伝わるが、嗅覚で得た情報は、「大脳辺縁系」から「大脳新皮質」へ伝わる