Lesson1-1 古代から中世

アロマ&ケアのはじまり

アロマ&ケアとは、精油(エッセンシャルオイル)を使って、植物の香りを人の暮らし・心・身体へ役立てようとする考え方をいいます。アロマ&ケアの基礎を築いたのは、フランス人の化学者ルネ・モーリス・ガットフォセという人物です。

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フランス人の化学者 ルネ・モーリス・ガットフォセ(1881~1950年)

香料会社を経営していたルネ・モーリス・ガットフォセは、実験中の爆発事故で火傷を負いました。そのとき、目の前にあったラベンダーの精油をかけたところ、みるみる回復したという体験をしました。彼は、この体験をもとに、精油の研究をはじめ、1937年に「芳香療法」を出版します。これが、現代のアロマ&ケアの原点です。

古代

では、さっそくアロマの歴史を古代からみていきましょう。

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アロマの発祥

アロマの歴史は古く、今から約5000年前にさかのぼり、エジプト、メソポタミア、インドからはじまったといわれています。古代文明が起こったエジプト(紀元前3000年ごろ)では、香りは神様への捧げものでした。そのひとつが「薫香(くんこう)」です。薫香とは、植物をいぶしたときの煙のことです。王や神官は、この煙を通して香りを宗教儀式に活用していました。

さて、エジプトで有名なミイラは、植物の「ミルラ」が語源になったともいわれています。古代の人々は、王様が亡くなるとその体に香料をつけてミイラ作りをしていました。この香料には、「ミルラ」や「フランキンセンス」など防腐効果のある植物を使用していました。

古代ギリシャの医学者 ヒポクラテス (紀元前460~377年頃)

さらに、香りの文化はエジプトからギリシャやローマへと広がります。

この時代、人々は、迷信、魔術、呪術など神のお告げを信じていました。そのため、病気が起こる原因は、神の怒りや悪霊によるものだという考えが一般的でした。

そのような中、病気を科学的にとらえようとしたのが、医学の祖ともいわれる「ヒポクラテス」という人物です。彼は、古代ギリシャの医学者で、病気の原因を科学的な視点から考え、植物を薬草として扱い治療に役立てようとしました。

中世

香り文化は、宗教儀式だけでなく、現代でいう薬や化粧品などのような幅広い用途で使用されるようになります。では、アロマと関わる中世の代表的な人物をみていきましょう。

アラビア 哲学者・医学者 イブン・シーナ 【ラテン名では、アウィケンア、アヴィセンナ】 (11世紀)

イブン・シーナ(980~1037年)は、18歳の頃からアリストテレス哲学を修得し、科学や医学などを学んでいました。彼は、錬金術(金以外の金属から金をつくる技術)の過程で、偶然、バラから「バラ水」と「バラの精油」を抽出することに成功します。こうして、「精油の蒸留法」が確立し、彼はこのバラ水を治療に用いるようになります。

十字軍の遠征(11~13世紀)

宗教対立から起こる「十字軍の遠征」によって、東西が行き交い、料理に欠かせないハーブ、薬草、アラビアの医学、蒸留法などが、アジア大陸からヨーロッパ大陸へと伝わりました。この時代、大人気だったものが「コショウ」です。コショウは、食材を美味しくさせるだけではなく、腐ることを防ぐはたらきもあり、貴金属と同じくらい価値があったといわれています。

「ハンガリー王妃の水(=ハンガリアンウォーター)」の物語(14世紀)

中世ヨーロッパでは、教会や修道院で薬草を中心とした「僧院医学」が発展します。これは、その時代の物語です。

ハンガリー王妃エリザベイト1世は、晩年、手足の痛む病気にかかりました。それを気の毒に思った修道院の僧が、ローズマリーなどの植物をアルコール水に浸し、痛み止めの薬を作りました。

王妃が、この痛み止めの薬を使ったところ、痛みはよくなり、年下の国王に求婚されるほど若さを取り戻したそうです。この痛みの止め薬は、「ハンガリー王妃の水(=ハンガリアンウォーター)」と呼ばれ、現在にも伝わります。

Lesson1-1 まとめ

・アロマ&ケアとは、精油(エッセンシャルオイル)を使って、植物の香りを人の暮らし・心・身体へ役立てようする考え方である

・アロマ&ケアの原点となる「芳香療法」を出版したのは、フランス人の化学者「ルネ・モーリス・ガットフォセ」である

・古代エジプトでは、ミイラ作りに防腐効果のある植物、「ミルラ」や「フランキンセンス」などを使用していた

・医学の祖として知られる「ヒポクラテス」は、病気を科学的な視点から考え、植物を薬草として扱い治療に役立てようとした

・「十字軍の遠征」によって、ハーブ、薬草、アラビアの医学、蒸留法などがアジアからヨーロッパへ伝わった

・イブン・シーナは、「精油の蒸留法」を確立した人物である

・14世紀、中世ヨーロッパの教会や修道院では薬草を中心とした「僧院医学」が発展した

・「ハンガリー王妃の水」は、中世ヨーロッパで修道院の僧がハンガリー王妃エリザベイト1世のために作った痛み止めの薬である